ペルシャ絨毯とは
最も古いペルシャ絨毯は、現在エルミタージュ美術館にある、永久凍土で腐食しないでいたという
バジリク古墳から出土したものとされています。紀元前6 ~ 3 世紀頃のものにしては、緻密につくられています。
この時代をそのまま受けて、絨毯起源の場所と年代を特定するのは難しいのですが、
どのあたりでつくり始められたかについては想像することはできます。
絨毯制作のための材料を容易に手に入れられることと、生活する上で必要なことが必須条件であるからです。
中東アジアの遊牧民が、一年で生え変わる羊の毛を紡いで、身近にあった藍や茜などの天然染料で染め、
住に必要なものとして作り出していったものが最初であると考えられます。
遊牧民であるため、移動した各地で軽くて温かく、丈夫な住居空間を構成する必要がありました。
床材=敷物、壁材=壁掛け、そして運ぶもの=ものを包む、かつ室内空間に華やかな美を生み出すための造形素材が絨毯でした。
パイル生地のため格段に温かく弾力性に富み、色彩とデザインに多くの祈りとメッセージが織り込まれていたのです。
それらの醸し出す美に感動を覚えるのは、遊牧民が持つ自然に対する感謝と生きることへの感動が表出されているからに他なりません。
ペルシャ絨毯の主な産地
クム QUM
クムは、イランの首都テヘランの南約 120km に位置するイスラム教シーア派の聖地で、シルク絨毯の代表的産地である。絨毯産業が確立したのは1930 年代で比較的新しいものである。カシャーンから技術指導を受けながら、各産地の最良の技術と意匠を取り入れシルクの風合いを活かした独自の絨毯を創り上げた。デザインのヴァリエーションの豊富さ、色彩の華やかさ、シルクの光沢を活かした織りの技術の緻密さで、日本人には最も人気が高い。
ナイン NAIN
イスファハンの北東郊外、小さな高原都市ナインは、絨毯の生産は第二次世界大戦直前に、開始。それ以前は「アバス」と呼ばれる伝統的な衣装を製造していたが、衰退し、織物職人はその技術を絨毯製作に切り替えた。細い糸に慣れていたため、繊細な絨毯を作り出し、その名はたちまち広まった。柔らかな羊毛をベースに絹を織り交ぜた緻密な技術で、デザインは正統派好みの古典的なもの。色彩はベージュ等を基調としたダークブルーを主に用い 、品格のある落ち着いた配色が特徴。
イスファハン ESFAHAN
イスファハンは、イラン中部高原地帯に位置するおよそ2600 年の歴史を誇る都市だが、数多くの遺跡や建物が現存している。16 ~ 18 世紀初頭までサファヴィー朝の都として栄え、シャー・アッバス1 世は美術工芸、特に絨毯産業に情熱を傾けた。王室専用の絨毯工房を設け、宮廷職人を育成し各地から優秀な職人を集めて絨毯の一大産地となったこの地の絨毯は、繊細で華麗な調、伝統を守りながら自然界の美しさと生命力を駆使したデザインを見事に創り出してきた。
カシャン KASHAN
カシャーンはテヘランの南約 300km の古都で、長い絹織物の歴史を持っている。シルク絨毯の発祥の地で、特にサファヴィー朝時代から数多くの傑作がつくられたということである。シルクの絨毯も伝統があるが、カシャーンのコルク・ウールを用いた絨毯は、光沢のある柔らかさで繊細な趣きがある。デザインは、伝統を大切にする気質を表現し、メダリオン意匠のものが大部分である。
タブリーズ TABRIZ
タブリーズはイラン北西部標高1,360m の高原に位置するアゼルバイジャン州の州都である。古くから東西交通の重要な位置にあったため、その歴史はササーン朝に始まり、13 世紀にはイル・ハン国の首都としても繁栄した。サファヴィー朝の17 世紀以来、最も重要な繊毯産地として名声を保っている。バイルにウールを、ポイントの文様にシルクを用いた技法が特徴である。自彩も見事で、「タブリーズ」という言葉を発すると、朝の光から夕べにいたるまでの美しい色彩が浮かぶと言われている。
ケルマン KERMAN
ケルマンは、イラン中央部のルート砂漠の西南部に位置する町で、その周辺地域で製作される絨毯はケルマン・ラグと総称されます。この地域の荒涼とした景観とは対照的に、ライトイエローをベースにチェリーレッドの美しい花の文様が特徴の絨毯が数多く見られます。これらの絨毯は木綿の地糸と羊毛のパイルを使用して製作されています。特にラバーの町で製作されたラグは品質が非常に優れており、「ケルマン・ラバー」として有名です。
シラーズ SHIRAZ [アートギャッベ]
ギャッベとは、イラン南部に広がるザクロス山脈周辺で古くから遊牧生活を送るカシュカイ(Qashqai)族の織るウール100%・手織りの絨毯のことです。ギャッベに描かれているモチーフは、ザクロス山脈のふもとで暮らす遊牧民が、毎日目にする風景。ギャッベに使われているウールは保温性、吸湿性に優れていて、見た目から想像するより夏でもサラリと快適。また遊牧生活のテント内での使用にも耐えるため非常に耐久性が高く、汚れにも強い絨毯です。世代を超えて末永くお使いいただけます。
1つ1つの柄にも深い意味があるんです。
ペルシャ絨毯には遊牧民の夢や祈り、信仰心などが込められ、意味の無いモチーフは無いと言われる程、象徴性に富んでいます。
ライオン=権力、勝利、深い知恵
ラクダ=健康、幸福、財産
生命の木=内なる人生、命、長寿
鳩=平和
孔雀=美しさの象徴、新生
ザクロ=富、満足、子孫繁栄
鹿=家庭円満、子供の健康、成長
鳥=神様からの使者
羊・ヤギ=豊かさ、財産、不自由ない暮らし
解釈の違いは多少ありますが、込められた思いや意味を知ることでより愛着のわく一品となります。
色鮮やかな自然の恵み
およそ3000〜5000年も昔から天然染料で糸を染めてきたイランの歴史。
遊牧民にとって、植物や昆虫などの自然の恵みを余すところなく使い、絨毯の色合いに染め上げてゆきました。
歳月とともにツヤを増し、少しずつ進む日焼けによって枯れた味わいをかもしだします。
天然染料は長い時間をかけながら、ゆっくりと味わいを増してゆくだけでなく、防虫作用もあるため、長い付き合いが可能なのです。
色とりどりのペルシャ絨毯は、自然の宝庫です。 黄色は、乾燥させたざくろの皮、
アスパラの花、サフランの花、牧草の一種であるイスペレク、ブドウの葉から作られます。
黒は黒羊から摂取した羊毛で、青は藍から。
赤は、茜の根やコチニールと呼ばれるサボテンにつく貝殻虫の雄から作られています。
茶色は、クルミの皮やカシの皮、そしてベージュはアカシアから生まれます。
色の少ない砂漠地帯に生活し、これらの色が遊牧民を束の間でも幸福にさせたのだろう、と遠く思いを馳せてしまいますね。